明日、タケシ先輩が旅立つ。
今日は、その先輩への自分なりのフェアウェル。
僕らのこの肉体労働的職場には、数少ない文学好きの先輩。
時には、本からの引用を用いながら、悩む僕を支えてくれたりした。
僕が本に興味を持つきっかけを作ってくれた人でもある。
先輩は、尊敬するヘミングウェイがかつて愛したキューバの地に触れるためにバイトしながら貯金していた。
今日、その目処が立ったらしい。
バイト終わりに、先輩を誘い出す。バイトからすぐ近くのヨットハーバ。
僕は、事前に用意しておいたクーラーボックスを肩に歩く。
日が落ちても、まだまだ空気が暑い夏の夜。
月明かりを頼りに、僕はクーラーボックスからミントの葉とライムを取り出し、砂糖を加えてバーススプーンで潰す。
そこにラムとソーダ水を加え、さっと混ぜる。
ヘミングウェイの愛した「モヒート」。
カクテルを差し出しながら、僕はタケシ先輩に言う。
戻ってきたら、ハバナで飲んだモヒートとの味の違いを教えて下さい、と。
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