堤未果の「ルポ貧困大国アメリカ」

ルポ貧国

 

堤未果の「ルポ貧困大国アメリカ」を読みました。

初版が2008年1月と、若干鮮度は落ちますが、衝撃の内容でした。
おそらくこの本で取り上げられている米国の抱える問題は、
今日に至っても、社会問題として根深く残っている印象を受けます。

それどころか、これらは改善されていない問題として、
むしろ悪化しているようにも受け止めることができます。
アメリカに住んでいると、イヤでも肌で感じるものがあります。

以下、僕の中で「引っかかり」のあったコトバのメモを読んで、
興味がわいた人は、ぜひ本を手に取って読んでくださいね。

 

 

命のリスクを負って密入国しなければならないほどに、
(メキシコからの密入国者は)グローバリゼーションの
波によって追いつめられている。

アメリカの人権団体「国境なき先住民連合」のデータによると、
1993年以降、アメリカ−メキシコ国境では
3800人以上の密入国者が死亡しており、
そのうち千人あまりが墓標のない墓に埋葬されているという。

(中略)

9・11後、「テロとの戦い」を掲げたアメリカ政府は、
移民法強化にますます力を入れ始め、メキシコとの国境に
長さ1220キロの電流が流れるフェンスを建設し、
6000人の州兵を国境警備隊補助として送り込み、
入国しようとする移民の逮捕をさらに厳しくする方針を固めた。

移民への締め付けが厳しくなるに連れて、
不法移民と犯罪者を分ける境界線は
ますますあいまいになっていく。

 
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世界一高い医療で破産する中間層

アメリカの乳児死亡率は年間平均1000人に6.3人という
先進国で最も高い割合だ(日本は3.9人)。

米国では、政府が大企業を擁護する規制緩和および
福祉削減制作に切り替えてから、普通に働く中間層の人々が
次々に破産するようになった。

2005年の統計では、全破産件数208万件のうち企業破産は
わずか4万件に過ぎず、残りの204万件は個人破産、
その原因の半数以上があまりに高額な医療費の負担
だった。

(中略)

アメリカの国民一人当たりの平均医療費負担額は、
国民皆保険制度のある他の先進国と比較して約2.5倍高く、
2003年度のデータでは一人当たり年間5635ドルになる。

民間の医療保険に加入してもカバーされる範囲は
かなり限定的で、一旦医者にかかると借金漬けになる
例が非常に高い。

 
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日帰り出産する妊婦たち

競争の中で高騰する医療費のしわ寄せは患者にかかる。
その中で日帰り出産する妊婦が年々増えているのも特徴だ。

「私の出産は日帰り出産です。
入院すると一日大体4000ドルから8000ドルかかるんですもの。
今アメリカの多くの女性は、高すぎる医療費のせいで
入院出産なんてできません」

アメリカには日本のような一律35万円の出産育児
一時金制度がなく、すべて民営化による自己負担のため、
所得による格差のしわ寄せが妊婦たちを直撃する。
入院出産費用の相場は1万5000ドルだ。

 
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競争による効率主義に追いつめられる医師たち

高すぎる医療費に加えて産科医不足も深刻な問題だ。
訴訟大国であるアメリカの産科医は収入の半分が
損害賠償保険の掛け金として消えることも珍しくない。

「ただでさえ人工妊娠中絶を行う産科医は
中絶反対運動家に殺害されるリスクまであるんですよ。
その上保険会社からの請求書に、訴訟の恐怖、
製薬会社かrなお圧力と、産科医になることには
デメリットが多すぎるんです」

 
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株式会社化する病院

「市場原理」が競争により質を上げる合理化システムだと
言われる一方で、「いのち」を扱う医療現場に導入することは
逆の結果を生む。

競争市場に放り込まれた病院はそれまでの非営利型から
株式会社型の運営に切り替えざるを得ず、
その結果サービスの質が目に見えて低下する。

「国内にある病院の大半が、使い捨て医療器具を、
節約のため別の患者に何度も使い回しています。
競争のための効率主義がビルゲイツやウォールストリートの
ビジネスマンたちのような大金持ちのいる先進国でありながら
医療サービス・レベルが世界ランキング中37番目、
乳児死亡率が43番面という、お粗末な結果を生み出すのです」

 
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「落ちこぼれゼロ法」という名の裏口徴兵政策

裕福な生徒が通う高校はもちろん個人情報など出しません。
ですが、貧しい地域の高校、州からの助成金だけで運営している
ところは選択肢がないため、やむなく生徒の個人情報を
提出することになるんです。

米軍はこの膨大な高校生のリストをさらにふるいにかけて、
なるべく貧しく将来の見通しが暗い生徒達のリストを作り直す。
そして7週間の営業研修を受けた軍のリクルーターたhしが
リストにある生徒たちの携帯に電話をかけて直接勧誘をする。

「政府はちゃんとわかっているんです。
貧しい地域の高校生たちがどれほど大学に行きたがっているかを。
そしてまた、そういう子の親たちに選択肢がないこともね」

 
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入隊しても貧困から抜け出せない

高校を卒業して入隊しても、最下級の新兵の給料は平均で
年間1万5550ドル。

毎月の給料から生命保険や軍服代、学費の前金などさまざまな
諸経費が天引きされ、手元にはほとんど残らなくなる。

(中略)

英国の医療雑誌「ランセット」によると、
2007年8月の時点でイラクにおける新兵の死亡数は3666人、
そのうち5%にあたる188人が自殺しているという。

 
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若者たちが誇りをもって、社会の役に立っているという
充実感を感じながら自己承認を得て堂々と生きられる、
それが働くことの意味であり、「教育」とはそのために
国が与えられる最高の宝ではないでしょうか?
将来に希望をもてる若者を育ててゆくことで、
国は初めて豊かになっていくのです。
学びたいという純粋な欲求が、戦争に行くことと
引きかえにされるのは間違いなのです。

 
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グローバリゼーションによって形態自体が様変わりした
戦争について、パメラは言う。

もはや徴兵制など必要ないのです。

政府は格差を拡大する政策を
次々に打ち出すだけでいいのです。
経済的に追いつめられた国民は、
黙っていてもイデオロギーのためではなく
生活者から戦争に行ってくれますから。
ある者は兵士として、
またある者は戦争請負会社の派遣社員として、
巨大な利益を生み出す戦争ビジネスを
支えてくれるのです。
大企業は潤い、政府の中枢にいる人間たちは
その資金力でバックアップする。
これは国境を超えた巨大なゲームなのです。

 

 

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*企画は身体性。良質な企画は世の中を変える。
*良きインプットが良きアウトプットを作る。

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