伝え方を磨くほど、信じてもらえなくなる|超翻訳
Aloha Branding 代表の長澤宏樹です。
本日、連載「超翻訳 ── 伝えたいを、伝わるカタチに。」の第16本を note で公開しました。

「バカ野郎め。飲みに行くぞ」
広告代理店で働いていたころ、会社のパソコンと睨めっこして企画を考えていると、大先輩によく言われた。
「そんなんで、いい企画なんかつくれるか。バカ野郎め」
この後には、だいたい「オイ、飲みに行くぞ」が続く。しかも、決まって「これは徹夜してもギリギリだな」という日に限って誘われる。
ある日、さすがに翌日のプレゼンに間に合わないタイミングだったので、勘弁してくださいと反論した。返ってきたのは、こうだった。「テンパってるから遊ぶんだよ。バカ野郎め」
結局その人は、ガハハと笑いながら、チーム全員を引き連れて外へ出た。作業は完全に中断。中華料理店に入るなり「今日は飲め飲め」。完全に飲み会である。
説明は、ひとつもなかった
ほど良く酔ったころ、大先輩が若手に声をかけた。「お前ら、大変そうだな、何の案件だ?」
若手が緊張しながら企画の趣旨を話す。黙って聞いていた大先輩は、笑いながら「うん、おもしろい! いいじゃないか」と、珍しく褒めちぎった。若手の顔がほころぶ。別のメンバーも話しはじめる。気づけば、全員参加の大ブレスト大会になっていた。
そこから彼は、「でもお前、こうしたらどうだ?」「B社で似たようなモノがあったよな」と、アイデアをかき混ぜていく。その場で、翌日発表する企画の骨子ができあがった。
あのとき受け取ったのは、行き詰まったら場所を変えろ、緊張を解け、上の人間から先に遊べ、という一式だった。だが大先輩は、そのどれも言葉にしていない。「バカ野郎め」と、「飲みに行くぞ」しか言っていない。
教わったのに、教えられていない。こちらが、彼の背中を見て、勝手に読み取っただけだ。
言葉が、行いを追い越すとき
これは、うまい伝え方の話ではない。順序の話だ。そして、この順序は2500年前から変わっていない。
孔子は言った。巧言令色、鮮(すくな)し仁。巧みな言葉と、取りつくろった顔つき。そこに人としての中身は、ほとんどない。言葉がうまくなるほど疑え、と、とっくに釘を刺されている。
新約聖書のヤコブは、もっと直接的だ。「信仰も行いが伴わないなら、それだけでは死んだものです」。どれだけ立派なことを信じ、語っていても、行いが伴わなければ、それは死んでいる。
企業の側にも、同じことをやってのけた例がある。ボルボ・トラックは2013年、「Epic Split」という75秒の映像を出した。ジャン=クロード・ヴァン・ダムが、後退する2台のトラックのミラーに足をかけ、真一文字に開脚する。それだけだ。ハンドル制御の正確さを示すのが狙いだが、「精密です」とは一言も言っていない。開脚を、ただ目撃させた。
言葉を否定しているのではない。順番の話をしている。行いが先で、言葉は後。やったことの上に載った言葉だけが、信頼になる。逆に、行いより先に言葉だけを磨くと、磨いたぶんだけ、うさん臭くなる。
コピーは決まった、トーンも整えた、それなのに反応が薄い ── あの感じの正体は、たぶんこれだ。技術が足りないのではない。言葉が、行いを追い越している。
言い方を直す前に、事実を一つ、棚から出す
むずかしいことは、しなくていい。
言い方を直したくなったら、その前に、飾らずに書ける事実を、一つだけ、棚から出してみてほしい。続けてきた年数でも、断ってきたことでも、誰かに言われた一言でも構わない。
それが一つあれば、言葉は後からついてくる。大先輩から受け取ったものにも、説明はひとつも付いていなかった。
逆に、どうしても出てこないなら ── 直すべきは、言葉ではないのかもしれない。
あなたのブランドは、ちゃんと「伝わって」いますか。「伝えているのに、伝わっていない」と感じるなら、その理由を、一緒に見つけます。
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連載「超翻訳 ── 伝えたいを、伝わるカタチに。」/毎週月曜、朝7時更新
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